お世話になります。税理士の山方です。
早いもので、あっという間に12月です。
今回は、相続税の節税としてもよく利用される「贈与」の話をいたします。
【1. 贈与税の申告漏れ事案が増加中】
平成28年度の贈与税調査によると3434件(前年比2.5%増)の申告漏れ事案が把握されてます。この申告漏れ事案のうち実に80.3%が無申告事案となっています。また申告漏れ事案全体の内訳は「預貯金」が73.1%と全体の7割を超え、次いで「有価証券」が9.9%となっており、「土地」の3.5%を大きく上回っています。この結果からは、現金や預貯金など比較的移動や隠しやすい財産について申告漏れが多発している事実がうかがえます。
また、そうした現預金の贈与に関する申告漏れ事案について、国税当局が積極的な調査をすすめている事の表れでもあります。
【2. 預貯金の贈与には注意】
以前から、生前贈与は基本的な相続税対策の手法として用いられています。相続税は死亡した時点の保有財産に対して課税されます。そこで、本人が生きている間に財産を贈与してしまえば、その分相続財産が減少し結果として相続税が減少することとなります。しかし贈与については原則として贈与税が課税されることとなります。年間110万円を超える贈与をうけた人は、翌年の3月15日までに申告・納付の義務が生じます。申告を怠ると悪質な場合などは、贈与税に加えて重加算税を課され莫大な税金を納付するケースもありますので注意が必要です。
現在、国税当局は金融機関に対して口座情報の開示を請求することが可能となっています。また、近年では国際的租税回避を防止するため、諸外国と連携して海外の個人資産に関する情報の共有を推し進めています。
納税者としては「ある日突然税務署が贈与税の申告漏れを指摘してきた。」ということが無いよう、正しい知識を持って贈与をする事が重要です。
【3. 正しい知識が節税のカギ】
少し怖い話を書いてきましたが、生前贈与が相続税対策において有効である事に間違いはないです。特に現預金は不動産などと違って登記などの煩雑な手続きや諸費用も不要なため贈与に向いています。
一番メジャーな生前贈与の手法は、年間110万円の贈与です。年間110万円以内の贈与であれば贈与税が課されることはありません。この方法は確かにリスクはないのですが、節税対策としては、長期間の時間を要するという側面もあります。相続発生が間近に迫っているケースなどは、贈与税を払ってでも贈与した方が結果として節税に繋がるケースもあります。
贈与税は税率が一律である事に対して、相続税は資産状況や法定相続人の数に応じて変動します。仮に500万円の贈与をした場合は税率は約10%ですので約50万円の税金ですみます。これに対し相続税の場合は10%~55%と幅があります。相続税の税率が20%の人であれば、500万円を相続すると100万円の税金が発生する事となります。この場合は生前贈与により贈与税を払った方が、税金で50万円の節税効果が得られます。仮に贈与する人数を5人に増やすと節税効果も5倍に増加し、1年で250万円の節税効果が得られます。
上記の例でも、500万円を5回(5年)に分けて贈与すれば、一回当たりの贈与額が100万円となり贈与税が発生する事はなくなります。しかし、5年という歳月を要することになるため、結果としてどちらの方法が有効と結論付けることは困難です。
実務においても、適正な贈与額を見積もるには、相続税の試算に始まり、「配偶者控除」や「生前贈与加算(3年間餅戻し)」などを考慮しながら算定することになります。
相続税も贈与税も高額になりやすい税金です。高額であるだけに正しく取組むことで大きな節税効果も期待できます。ぜひ税理士等の専門家を交えてご一考されることをお勧めします。